日本税理士政治連盟が令和6年度税制改正要望を決定しました
2023年07月14日
こんにちは。名古屋市緑区の税理士 米津晋次です。
日本税理士会連合会は、毎年の税制改正に対して、唯一の税務の専門家として「税制建議」を権限ある役所に提出しています。
そして、日本税理士政治連盟は、この税制建議を実現するため、税制改正が審議される国会への要望等を進めています。
→ 日本税理士政治連盟公式サイトへ
今回は、日本税理士政治連盟がこのたび決定した「令和6年度税制改正要望」から、特に緊急と思われる最重要要望3項目をご紹介しましょう。
中小法人の配当促進税制の整備と役員給与税制の見直し
最重要項目の一つめは、「中小法人の配当促進税制の整備を行うとともに、役員給与税制を見直すこと」です。
◆中小法人の配当促進税制を整備すること
近年、「貯蓄から投資へ」の流れを加速し、幅広く資本市場に参加することを通じて成長の果実を享受できる環境を整備することが重要であるとされている。
このため、令和5年度税制改正では上場株式等についてNISA制度の拡充などの改正が行われたが、中小法人に対する投資については、それを促進する措置は整備されていない。
したがって、中小法人についても配当を行いやすい環境を整えるべきである。
具体的には、中小法人が配当を行う場合には、中小法人の所得のうち配当に充てられた部分に対する法人税率を低くするとともに、中小法人の個人株主が配当を受ける場合にも申告分離課税制度を認めることや配当控除を引き上げることを検討すべきである。
なお、この場合には、取引相場のない株式等の評価に際して株式評価額が上昇しないような制度とすることが必要である。
◆役員給与は原則として全額損金の額に算入すること
会社法制定により役員報酬の利益処分手続が廃止され、企業会計基準の改正により役員賞与が職務執行の対価と位置付けられるなど、役員給与の性質は抜本的に見直されてきたが、法人税法第34条(役員給与の損金不算入)の規定は、損金に算入される役員給与を限定列挙する形式になっている。
役員給与は職務執行の対価であり、法人税法第22条により原則として損金の額に算入され、恣意性のあるものなど課税上弊害があるものについてのみ損金の額に算入されないのが本来の姿であると考えられる。
したがって、経営者のモチベーションを高めるためにも、損金不算入とする役員給与を明示したうえで、役員報酬及び賞与について株主総会等の決議によって事前に確定した金額の範囲までの部分については、不相当に高額なものを除き、原則として損金の額に算入すべきである。
消費税の非課税取引範囲の見直しと軽減税率の廃止
最重要項目の二つめは、「消費税の非課税取引の範囲を見直すとともに、軽減税率制度を廃止し単一税率に戻すこと」です。
◆消費税の非課税取引の範囲を見直すこと
消費税は、消費に広く公平に負担を求める観点から、財貨・サービスによる付加価値に対して均一に課税することが原則であり、非課税取引の範囲は最小限にすべきである。
しかし、度重なる改正により、社会政策的な配慮などから非課税取引の範囲が拡大されてきた。
非課税取引については、売上げに対して取引先から消費税相当額を収受できない一方で、商品調達や設備投資等の仕入税額控除は認められない。
このため、非課税取引となる資産の譲渡等をする者は、最終消費者ではないにもかかわらず、仕入れに係る消費税について実質的に負担する仕組みとなっている。
また、居住用賃貸建物の仕入税額控除の制限のように特定の租税回避行為に対してその都度当該取引を非課税取引とするような対処方法は、税制の簡素化に反する。
非課税取引として消費税法別表第一(第6条関係)に掲げられる取引には、「税の性格から課税対象とすることになじまないもの」と「社会政策的な配慮に基づくもの」があるが、社会政策的な配慮に基づくものや日本郵便株式会社等が行う郵便切手類の譲渡については、課税取引とし、課税標準及び仕入税額控除の計算過程に取り込み、小規模事業者判定における売上高基準にも反映させ、計算をできるだけ平易にすべきである。
◆消費税における軽減税率制度を廃止し単一税率に戻すこと
消費税の軽減税率制度は、低所得者への逆進性対策としては非効率であること、「社会保障と税の一体改革」という当初の目的から乖離して歳入を毀損し、その補填のため標準税率のさらなる引上げや社会保障給付の抑制が必要となること、区分経理等により事業者の事務負担が増加していること等の理由から、早期の見直しを図り単一税率制度に戻すべきである。
消費税の逆進性の緩和対策としては、必ずしも税制の枠内で解消する必要はなく、マイナンバーを利用した簡素な給付措置を導入するなど給付面を含めた税制・社会保障制度全体の中で解決することが適切である。
人的控除のあり方の見直しと基礎控除へのシフト
最重要項目の三つめは、「基礎的な人的控除のあり方を見直すとともに、所得計算上の控除から基礎控除へのシフトを進めること」です。
◆基礎的な人的控除の見直し
基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除及び扶養控除は、憲法第25条が定める健康で文化的な最低限度の生活を保障するための基礎的な人的控除と解され、課税最低限を示すものである。
課税最低限は、財政事情を考慮しつつも、生活保護水準等を参考に決定していくことが望ましく、現行の基礎的な人的控除はその額を引き上げるべきである。
なお、現行制度においては、16歳未満の年少者について扶養控除が適用されない。
課税最低限を構成するものであるにもかかわらず、年齢によって扶養控除に制限を設けることは適当ではなく、扶養控除の対象者に年少者も含めるべきである。
◆所得計算上の控除から基礎控除へのシフト
給与所得控除及び公的年金等控除の水準が過大であることや、こうした所得計算上の控除が適用されない事業所得者等とのバランスも踏まえ、所得計算上の控除額を縮減したうえで、基礎的な人的控除の額を引き上げるべきである。
その際には、負担調整の比重を、個々の人的事情に左右されない基礎控除に移すことが望ましい。
(1)給与所得控除額の縮減
給与所得控除は「勤務費用の概算経費」と「他の所得との負担調整」の要素を持つが、現状では給与収入総額の3割程度の控除水準であり、この2分の1とされる「勤務費用の概算経費」の部分に限って比較しても、給与所得者の必要経費の試算額である給与収入の4%を大幅に超えている。
また、近年、働き方の多様化により、被用者に近い自営業主(雇用的自営)の割合が高まっており、事業所得等との関係からみれば「他の所得との負担調整」を行う必要性は薄れつつある。
したがって、給与所得課税の適正化を図るためには、特定支出控除制度をより一層拡充し、給与所得控除額については、その構成を明らかにしたうえで縮減すべきである。
(2)公的年金等控除額の縮減
公的年金等への課税は、保険料の拠出時には社会保険料控除として全額控除され、年金の受給時には公的年金等控除が適用されることで、実質的に非課税に近い制度となとなっている。
したがって、公的年金等控除額は可能な限り縮減すべきである。
また、世代内での課税の不均衡を是正するため、公的年金等控除額の年齢による差異をなくすべきである。
さらに、公的年金等収入と給与収入の双方がある者については、平成30年度税制改正で若干の見直しがなされたものの、担税力のある者に相応の負担を求めるため、それぞれの概算控除額を調整する仕組みをさらに見直すことが必要である。
【投稿者:税理士 米津晋次】
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