日税連が「令和7年度税制改正に関する建議書」を決定

2024年08月01日
 
 こんにちは。名古屋市緑区有松の税理士 米津晋次です。

 日本税理士会連合会は、税務行政その他租税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができると税理士法に規定されており、この規定に基づき、税制改正に関する建議書を毎年取りまとめています。
 今回は、令和6年6月27日に開催された第1回理事会において決定された「令和7年度税制改正に関する建議書」における重要建議項目について掲載します。


消費税


(1)消費税における軽減税率制度を廃止し単一税率制度に戻すこと


 消費税の軽減税率制度は、低所得者への逆進性対策としては非効率であること、「社会保障と税の一体改革」という当初の目的から乖離して歳入を毀損し、その補填のため標準税率のさらなる引上げや社会保障給付の抑制が必要となること、区分経理等により事業者の事務負担が増加していること等の理由から、早期の見直しを図り単一税率制度に戻すべきである。
 消費税の逆進性の緩和対策としては、必ずしも税制の枠内で解消する必要はなく対策が必要な者に直接給付が出来る仕組みを構築する等、給付面を含めた税制・社会保障制度全体の中で解決することが適切である。

(2)インボイス制度導入に伴う各種特例措置について適用期限を延長すること


 インボイス制度の導入に伴い各種の特例が設けられたが、いずれも経過的な取扱いとなっており、それぞれの制度が安定し定着するまでの間、適用期限の延長が検討されるべきである。
・小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)は極めて小規模な事業者の事務負担を軽減する措置として有効であり、令和8年9月30日とされている期限について延長が検討されるべきである。
・免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置(8割特例)は適格請求書等の登録をしていない事業者の取引排除の最小化という公正な取引を確保する見地から有効であり、令和8年9月30日とされている期限について延長が検討されるべきである。
・一定規模以下の事業者が適格請求書等の保存を不要とする特例について、証憑類のデジタル化が進みにくい類型であるため、令和11年9月30日とされている期限について延長が検討されるべきである。

災害対応税制


 雑損控除の適用につき「特定非常災害により生じた損失」については、控除の順番を見直すとともに、繰戻還付制度を創設すること。
 雑損控除は、災害又は盗難若しくは横領という納税者の意思に基づかない偶発的な損失による担税力の減少に配慮して、その損失額を所得金額から控除する制度である。また、損失発生年の所得金額から控除しきれない額は、翌年分以後の所得金額から控除される。
 課税所得の計算上、現行の雑損控除制度では、災害による損失と盗難又は横領による損失を同じ取扱いとしているが、所得控除すべき災害損失は、費用性資産の滅失損や金銭債権の貸倒れとは異なり、課税済みの生活資本に係る不慮の損害について担税力の減殺を見出すものであるため、まず、最初に災害の有無にかかわらず適用される災害損失以外の他の所得控除を適用し、最後に雑損失のうち特定非常災害により生じた損失につき控除を適用し、より手厚い控除可能性を残すべきである。
 また、東日本大震災の際には、「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」により、純損失の繰越控除の特例及び繰戻し還付の特例が適用された。大規模な災害が生じた場合において、その都度特例的取扱いを行うのでは適時の対応が困難になることから、災害が生じた年分の純損失額の繰戻しによる還付を可能とする恒久的な措置等を検討すべきである。


所得税


(1)少子化対策について、税制面での検討を行うこと


 近年、わが国の税制では、所得再分配機能の回復や、経済社会の構造変化に対応する観点から、所得税の改革が論じられ、女性の社会進出をはじめとして多様な働き方への対応が検討され、各種控除等の見直しが行われたものの、最大の社会課題である少子化問題に対応したものには至っていない。
 少子化問題については、子育て世代の可処分所得を増加させることや、子育てと就業の両立、子育て後の再就職の機会を拡大させることなど、あらゆる施策を総動員して対応しなければならず、税制措置による効果は限定的であると考えられるが、年少扶養親族や高校生世代の扶養親族に係る所得控除と給付等との併用、配偶者の就業調整を減少させるための更なる検討、不妊治療や出産費用等に係る医療費控除の拡充、教育等に関する支出についての税制支援など、少子化対策の一助となる税制について検討を行うべきである。

(2)年末調整の実施時期及び所得税の確定申告期間を拡大すること


 所得税の計算において所得控除が複雑化することは、源泉徴収義務者の負担が増し、納税事務において事後の修正手続、争訟等のリスクも増大させる高コストの制度となる。
 一方で、課税の公平性を求めると制度がある程度複雑化することは避けられないのが現実である。
 この公平性と手続負担の軽減を両立させるためには、申告期限等を延長し、正確な計算に要する時間を確保することも必要である。

年末調整の実施時期等


 年末調整は、その年の最後の給与支払時に行うこととされている。しかし、配偶者や扶養親族の所得が確定していないことによる見込み計算の場合や、新規契約をしたことなどにより生命保険料控除証明書の到達が遅れた場合など、一旦年末調整を行ったものの、翌年に年末調整をやり直すケースが生じることがある。
 このような事務手続きについて、計算を一回の手続きで完結させるため、年末調整は翌年1月末までに行うものとして、給与支払者の事務コストを軽減すべきである。
 さらに、年末調整の実施時期の変更に合わせて、法定調書及び給与支払報告書の提出期限も2月15日とすべきである。

所得税の確定申告期間


 年末調整の実施時期等を変更する場合は、源泉徴収票や法定調書を必要とする所得税の確定申告に影響が及ぶことから、確定申告期間についても見直しが必要である。
 加えて、年末の医療費情報やふるさと納税に係る寄附金受領証明書などについては、現行の確定申告期限では、その間際にマイナポータルに格納されるケースがあり、せっかくの情報が活用されない結果となることがある。
 また、還付申告だけではなく納付を伴う確定申告も1月1日から申告可能な体制とし弾力性を持たせるべきである。
 したがって、所得税の確定申告期間は、1月1日から3月31日までとすべきである。


中小法人税制


(1) 役員給与税制について次の見直しを行うこと。


業績悪化改定事由の要件を緩和すること


 役員給与は職務執行の対価であり、法人税法第22条により原則として損金の額に算入され、恣意性のあるものなど課税上弊害があるものについてのみ損金の額に算入されないのが本来の姿であると考えられる。
 一方で現行法は、法人税法第34条(役員給与の損金不算入)の規定により、損金に算入される役員給与を限定列挙する形式になっており、これらが企業が本来行うべき適切な経営判断に影響を与えている。
 特に顕著な例示として、業績悪化時の役員給与改定の判断がある。経営状況の著しい悪化に至らない場合であっても、業績悪化時に役員給与の減額を行うことは企業が財務体質の悪化を避けるために率先して行うべき措置であると考えられるが、法人税の取り扱いがその経営判断の妨げとなっている場合もある。
 そのため、役員給与の減額改定が「経営の状況が悪化したこと」を理由に、赤字の回避のために行われたような場合は、恣意的な利益調整を排除する一定の要件を付した上で、減額改定前後の定期同額給与について、損金算入を認めるべきである。

新設法人における定期同額給与判定の時期を柔軟化すること


 定期同額給与の額を改定する場合の損金算入の要件は、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3月を経過する日までに改定を行い、その改定前後の各支給時期における支給額が同額であることとされている。
 設立事業年度についても、この規定に従い、事業年度開始から3月以内に役員給与の額を定め支給開始を行う必要があると解されている。
 しかしながら、新設法人の場合には設立後開業準備に時間を要するなどの理由から、事業年度開始後3月程度では売上の計上が見込めず、役員給与の支給を開始することができない場合がある。そこで、設立事業年度については、法人が事業年度開始後3月を超える時期を最初の役員給与の支給時期として定めた場合には、当該定めに従って支給した給与も定期同額給与として取り扱い、損金算入を認めるべきである。

中小企業者等の法人税率の特例について延長すること


 租税特別措置については、その実効性を高める「メリハリ付け」について検討されている。
 メリハリ付けの方法は「税率をアップさせて特例を拡大」する積極的な方法と、「税率をアップさせずに特例を整理する」消極的な方法が考えられるが、中小法人については後者の方法が妥当する。
 確かに、中小法人の成長に対するディスインセンティブとなるような税制については整理されるべきであるが、地域経済を支え、国民の勤労義務の受け皿としての中小法人の役割は重要であり、経済の先行きの不安定性が予想されるなか、中小企業者等の法人税率の特例については延長されるべきである。


【投稿者:税理士 米津晋次
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